「ごほっ、ごほっ……」「うう……　なにが……？」「なんじゃったか、なにをしとったかの……」「確か、佐奈ちゃんがきて……」

「みなさん、お目覚めのようですね。
　はじめに説明します。私は伊早瀬アラカ、探偵です。
　ここには如月ヨミさんのーー先ほど、遺体が発見された被害者に呼ばれてやってきました」

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「今、この村はいわゆるミステリー小説の世界になっていると思って」

あの後、村にやってきた少女ーーアラカは、佐奈ちゃんを避難させてから簡単に説明してくれた。

「この村は異界ーーそれも、女性を無力化することに長けた世界に塗り替えられつつあった。私でも勝ち目がなくなるぐらいに強力なやつね。
　だから、強引に他のルールを持った世界で塗り替えたの。
　普通なら未然に異界化の原因を祓ったり、異界化した後で核を破壊するんだけど、今回は一度異界として成立されると相性が悪すぎるし、異界化の原因を突き止める時間がなかったから……
　まあ、時間稼ぎね」

閃光と轟音で失神した村の人達ーー佐奈ちゃん、佐奈ちゃんのお父さん、村長さん、甲斐お爺さん、葉月さんをベッドに運びながら説明してくれる。

つまり、この村があの異常な世界ーー暗く澱んだ空気と極彩色の空ーーになってしまえばどうしようもないから、その直前で押しとどめていると言うことらしい。

「結界じゃなくて呪術の類だし、相手の動きだけじゃなくてこっちの能力や動きも制限されちゃうからあんまり良くないんだけどね……
　行使に求められる性質も闇としての巫女だし……」

「この村が異界にならないように時間稼ぎをしてるってことは何となく分かったけど……
　ミステリー小説の世界っていうのは？」

「んー、簡単に言うと、この村ではミステリ小説の範疇を越えるようなことが極端に起きづらくなってるの。
　例えば、触手の化け物がそこかしこから湧いて出て次々襲ってきたりとか、空から3メートルぐらいの化け物が降ってきて襲ってくるとか、あとはそれこそさっきみたいに男の人達が全員精神を汚染されて操られるとか……　オカルトや超能力の類が著しく制限されるわ。
　完全に封じれるわけじゃないけど、大怨霊だろうが高位妖魔だろうが、人間でも対応可能な程度の範疇でしか力を振るえなくなっているはず」

挙げられる例はどれもめちゃくちゃだけど、それは冗談でも誇張でもないのだろう。
この村ではそういうことが起きてもおかしくないーーなんなら、起きるのが普通なんだ。

「それから、３つ程重要なことがあるわ。
　一つは、この世界では論理ーーロジックの力が増していること。
　論理立てての説明や論破、そして論理による追及に強力な強制力が発揮されるわ。
　ミステリー小説のクライマックスで探偵が推理しはじめたら、犯人は基本的に暴れたりできないし、正体を暴かれてから抵抗しても簡単に取り押さえられて逮捕されるでしょ？
　この世界ではあんな感じで、論理による追及に実効的な強制力が付与されているの」

「えーと、つまり……
　力づくで暴れるよりも、推理や論破の方が強い世界ってこと？」

「それで合ってるわ。
　こっちも同じ制限を受けてるから力づくで敵を倒すことはできないけど、相性差がある相手と正面から殴り合えば不利だし、膠着状態に持ち込んだってこと。
　ただーーこの呪術は、時間経過で解除されるわ」

つまりーー

「そう、できる限り早く原因を突き止めて解決しないといけない。
　このミステリー世界の呪術が解除されればこの村は淫界として成立してしまうから、私の攻撃は効かなくなるし男の人たちは精神を汚染されて操られる。
　……なんなら、完全に解除されなくても影響自体はあるわ。
　数日もすれば、村の男の人にちょっとした認識改変ぐらいはされるかもしれない。
　時間が経てば経つほど呪術は綻んでいく、そうすればどんどんこの世界は淫界に寄っていく」

そして、淫界としての属性が強くなればなる程アラカは追い詰められていくーー
一時的に危機を脱しただけで、まだ追い詰められているということだ。

「そういうこと。
　で、二つ目の重要なこととしては、異界化の元凶ーー異界の主人はあの村人の中にいるわ」

「は？」

いきなりとんでもないことを言われた。
どういうことだ？

「ニュースは見てるわよね。
　この村が土砂崩れで潰れた時の生存者が何人いたか」

「？　うん、6人だよね。ベッドで寝てる5人と、まだ見てないけど作家の人がいるって。
　あ……　僕を入れると7人になるんだけど……」

「ああ、キミのことは大丈夫。
　謎は多いけどね……　だからこそキミはいろいろ調査資料が上がってたし、たぶん問題ないの。
　というか……　救出された生存者、キミを除いて5人のはずなんだ」

「……は？」

「私はここに来る前に、土砂崩れの現場で救出を行なったレスキューの人に色々聞いたり、調べたりしてから来たの。
　結論として、病院に搬送を行なう途中で一人増えているわ」

「それ、は……」

「ついでに言うと、さっきの退魔師……　如月ヨミもたぶん正面からやられたわけじゃないわ。
　こっそり何か飲まされたとか……　人間に化けた村人に陥れられたんでしょうね。
　そういう意味ではさっきの宣言も嘘じゃないわ」

「じゃあ本当に……  犯人は、この中にいるーー」

「そういうこと。
　悪霊が人間に成りすましているのか、悪霊に取り憑かれているのかはわからないけれど…… 
　危険な存在であることも、異界の主人や原因に限りなく近い存在であることも間違いないわ。
　だからやるべきことは簡単、村人達の中に潜んでいるーー犯人を特定して追い詰める」

「なるほど……」

まさに探偵、ということだ。
ヨミせんぱーー退魔師のヨミさんを襲った犯人を見つけて、推理で追い詰める。
そうすればこの村の異常も含めて全て事件解決、というわけだ。
んーー？

「あ、さっきヨミさんの時はアリバイ工作があったって言ってたけど、それで何かーー物証とか、いや、犯人が触った物があれば！！
　僕はわかる！！」

そう、それさえあれば僕にはこの右手がある。
サイコメトリーを使えば、犯人の特定が可能だ。
それでなくとも現場の状況、時間ーー様々な情報が手に入る。

「どういうことーー？」

問われるまま、自分の右手のことを説明していく。
制御は不安定だが、外部から退魔師が霊力を注げば使用もほぼ自由。

これならーー

「それなら……！　確かに情報が一気に手に入る……！」

アラカもやや興奮気味だ。
この異能はこの状況においては正しくジョーカーだ。
犯人の触れた物さえあれば、一瞬で問題を解決できる。

「よし、早速……！」
「あ、でも今は無理よ」
「え？」
「さっきのアリバイトリック、私の出まかせだもの」
「は！？！？」

「だってこの呪術を行使したのはついさっき、如月ヨミが襲われた後だもの。
　襲われた時はオカルトに何の制限もかかってなかったから、手段も、いつやられたのかも可能性が多すぎるわ」

「ええ……　確かにそうだけど……」

「後であの退魔師さんのいた近くにレコーダーを隠しておいて、それを発見しましょう。
　とりあえずは犯人候補全員にアリバイがあったって言えばいいの。
　それで犯人のトリックは成立するから、論理に矛盾はでない」

初めから犯人（なりすまし）がいるとわかっているから、種も仕掛けもないオカルトをトリックだと言い張れる。
どうせ犯人を捕まえるなら、そこでまとめて押し付ければいいとーー

「ぺ、ペテンだ……」
「呪術なんて本来そういうものよ。
　ま、それはさておき……　本当に犯人探しもしなきゃいけないけれど、ね」

それはそうだ、退魔師さんの線から犯人を辿るのが難しくなったということなのだから。

「そうそう、最後の重要なことなんだけれどもーー
　捜査を手伝って欲しいの。
　実はキミについても調べたんだ。
　謎だらけだけど、その分レスキューや病院からの証言も多かったから、後から増えた成りすましでは無いことはわかってる。
　サイコメトリー能力もあるし、それにーー」

「それに……？」

「……ん、キミは、信用できそうだから。
　手を貸して欲しい」

『キミは、信用できそうだから』

ーー何か、ひどく懐かしいような記憶、大事な物。
狂おしいほどの思慕とーー恐怖。

その全てを飲み込んで、僕はアラカの手を取った。

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目を覚ました村人達に簡単に自己紹介を済ませる。
ちなみに、僕はアラカの助手ということにしておいた。

呼ばれて村にやってきた探偵だの、呼び寄せた人が遺体になっていたなど、まるっきりミステリ小説の紋切り型。
ましてや、村に超常的な力で閉じ込められている状態でそんな話を聞くものだろうかと心配したのだがーー

「なるほど……」「そんな、私たちの中に犯人が……？」「わ、儂はやっておらんぞ！」

信じた。

（言ったでしょ、認識に改変がかかってるって。
　ミステリ小説の筋に沿うことであれば強く認識するし、そこから外れるものは意識しなくなる。
　今のこの人たちは、村に閉じ込められていることも、NPCの村人達も気にならなくなっているの）

な、なるほど……
しかしそれ、洗脳って言うのでは……

（気を逸らしてるだけよ）

「さて、まずは全員に聞き込みをさせてください。
　こっちに部屋があるので、お願いしますね」

＝＝＝＝＝

「うむ、ワシは本当にそれだけで……
　この村に戻ってくる前は関西の方でぶいぶい言わせとったんじゃが……」

「はい、はい、それで……」

アラカによる事情聴取の一人目は村長さんだ。
関西弁のおじさんのイメージに違わずかなりのお喋りなようで、さっきからずっとーー主に自慢話や武勇伝を喋り続けている。

この事情聴取は事件発生前後の行動や、村周りの情報の聞き込み……　と、いうことになっているが実態は違う。

（どう？　読み取れた？
　……正直もう終わらせたいんだけど）

（だいたい、大丈夫……
　ウソはついてないし、読み取れない記憶もないよ）

この事情聴取は全て、僕がサイコメトリーをするためのセッティングだ。
ボディチェック、傷跡の確認、脈を測る……　理由を適当につけて、僕が対象に右手で触れる。

ある程度長く記憶を読み取ることができれば事件のタイミングーーヨミさんが襲われた時に何をしていたかは概ねわかる。
直近の時間しか読み取れなかったとしても、アラカの質問に対してウソをついているのか正直に答えているのかは確実にわかるということだ。

（そ、なら村長さんはシロってことね。
　あー、疲れた……）

（あー、うん、シロだね）

そう、シロだ。犯人ではない。
なにせ考えていることがーー

（アラカ言うんかあ、ええのう、可愛い顔しとるわ）（乳は小さいけど、ケツはええ形しとるわ……　こういう女になりかけのおなごをハメるんもエエんよな）（酒でも飲ませて押し倒したろか……　口も尻も躾けてやりたいのお）

……セクハラオヤジと呼ぶのは間違っているだろうか。
実際に口にしたわけではない以上、糾弾するのは間違っているが……　それにしたってここまで強烈にアラカに対して性欲を向けているとは。

「どうかのうアラカちゃんや、ワシも協力したろうかおもて……」
「はい、事情聴取のご協力ありがとうございました。もう結構ですよ。
　それから、伊早瀬です」

……いや、セクハラオヤジで良いかもしれない。
今明らかに手を伸ばそうとしてたし。

「はあ……　こんな状況でもあんな露骨にジロジロ見てくるなんて節操のない……
　淫界の影響……　いや、アレは素ね……」

……なんだか、もやもやする。
アラカに対して露骨な性欲を向けられたということが、妙に引っかかる。

「どうかした？　あの村長、何か怪しいことが？」

訝しむアラカに、事件には関係なさそうだと伝える。

……そう、関係ないのだ。
アラカが魅力的な少女であることは単なる事実で、そんな彼女を女性として狙う男性がいるのもまあ、当然ではある。
だからそこについて僕は無関係なのだ。
僕はたまたま犯人の疑いがなくて、なおかつ有用な能力があったからアラカに協力を頼まれただけ。
アラカと僕は単なる他人なんだから、知り合ったのなんてほんの数十分前でーー

『ほんとうに？　ひどい人、本当にひどい人ねお兄さん！　あんなにも情熱的だったのに！』
「どうかしたの？　ねえ、キミ？」

声が重なって聞こえる。
あるべきでないのに、そうあるのが自然なようで、二つの声が聞こえる。
何か、何かーー　何かを、覚えているーー

『ふ、ふふ……　あはは……　勇気、か……　ふふ……』
『大切にする、なんて当たり前でしょう』

まだ肌寒い日の夜、なにか大切な再会があった。
あの日、何か大事なものをもらった。
僕は、なにかーー　何かを、覚えてーー

「僕たちは、前に会ったことが、ある……？」

いや、会ったよりも、もっと何か、あった気が……

「……この状況でナンパするような人は、もういないで欲しいんだけど」

ーー今は記憶を探るより先に、この冷たい視線をどうにかした方が良さそうだ。

＝＝＝＝＝＝＝

「ええ、ボクは食材を運んでいたぐらいで……
　はい、倉庫が西の方にありまして」

二人目は葉月さん……　村人では比較的若い方で、何かと雑用をさせられているらしい。
背も高いし筋肉質で力もありそうだが、どうにも気が弱いらしい。
サイコメトリーをしてもかなり動揺していることがハッキリとわかる。

（うん……　嘘もついていない。
　かなり前の記憶まで読めたけど、特に証言と齟齬もない）

「葉月さん、ご協力ありがとうございました。
　まずはこれで大丈夫です。
　また何かあればご協力をお願いいたします」

これで容疑者は6人中4人だ。
うち一人は佐奈ちゃんだから、実質あと3人だろうか？

そういえばーー

「まだ会っていない、作家の人って探さなくて良いの？
　ここ数日誰も直接会ってないって言ってたけど……」

そう、この村に取材のためにきていたという作家さんの姿を、僕たちは見てすらいない。
葉月さんから聞いたところによると、ここしばらくは誰も直接顔を合わせたことすらないそうだ。

「必要なものがあれば置き手紙で指示があった場所に運んでもらってるとか……
　明らかに怪しいけれど……」

ついでに言えば如月ヨミさんが襲われた時もアリバイが無い。
まあ、その点についてはオカルト的手段の犯行が可能である以上アリバイの有無なんて関係ないのだけれども。

「あ、作家さんはたぶんシロよ。
　出版社の側に問い合わせて、村に行って土砂崩れに巻き込まれたことも病院から消えたことも裏が取れてるし。
　土砂崩れで死んだ後に姿を真似られてる可能性はあるけど、作家さんは通院歴が東京の方に残ってた。
　発見された死体の中にいなかったことはほぼ確認できてるわ」

「なるほど……　となると残る容疑者は、佐奈ちゃんのお父さんと甲斐さんの2人か……」

佐奈ちゃんは村が淫界になりかけた時に真っ先に襲われていた。
まず容疑者から外しても良いだろう。

そうするとなんだかあっさりと解決しそうだ。
いや、時間が経てば経つほど淫界になっていくんだから、あっさり解決しないとまずいんだけど。

「可能性で言えば佐奈ちゃんもゼロじゃないわ、取り憑かれて操られているパターンはあり得るし。
　……まあ、その場合は村が淫界になった瞬間に苗床にされるだろうし、わざわざ追いかけられてた辺り可能性は低いわね」

「なるほど……　一応サイコメトリーした方が良いんだね」

「まあ、そうなんだけど……
　ねえ、大丈夫？　顔色が悪くなってる」

「え……？」

言われてみれば、少し疲れているかもしれない。
でも今日は本当に色々あったし、まあこんなものだとは思うけれども……

「……ダメね、今日はもうサイコメトリーを使わない方がいい。
　キミ、能力のリソースに生気を無理矢理使ってるでしょ。こんなの、気づいてればやらせなかったのに……」

『生気は本来異能の行使には向かず、変換効率も悪ければ最大出力もたかが知れています』
『絶対にやらないでください。
　いいですね？　ぜっ……  たい、やらないこと！』

どこかで聞いた言葉を思い出す。
誰に言われたかは思い出せないけれど、きっと大事な忠告だ。
そう、そうだ、確かーー

「ええと、霊力を外部から供給すれば問題なく使えるはずだって……」

「え？　ああ、確かにそれなら……
　私が手を重ねればやれる、かしら？」

「ええと、たぶん。
　誰かはわからないけれど、そうやって使用したことがあったはず……」

「……やっぱり、キミの記憶も調べる必要がありそうね。
　まあ、まずは事情聴取の方だけど……」

「ふざけるな！　私は帰るぞ！　こんなところにいられるか！！」

怒号が響くーー部屋のすぐ外だ。
考え得るより先にドアを開いて外を見れば、荒い息をつく壮年の男性ーー佐奈ちゃんのお父さんが椅子を立って叫んでいた。

「ど、どうしたんですか？
　なにがーー」

「なにがじゃない！　犯人とやらがいるんだろう！？
　それなのに一箇所に集めて！　挙句に私にまで事情聴取だと！？
　バカを言え！　わ、私は犯人がつかまるまで家から出ないからな！！」

完全にヒステリーを起こしているーーあるいは、そのフリをしている。

「お、落ち着いてください。
　まずはーー」

「ええい！　知ったことか！　探偵なんていうのも信用できん！
　私は自分の身は自分で守る！！　帰らせてもらうぞ！！」

ダメだ、聞く耳を持たない。
すごい剣幕で、今にも手をあげそうなぐらいだ。

「お、おい父さん。
　ちょっと落ち着いてさ……」

「これが落ち着いていられるか！
　佐奈！　早く家に帰るぞ！」

娘の制止すら聞こうとしない。
これは、どうしたものかーー

「嫌なら帰っていただくのは結構ですが、佐奈ちゃんを連れて行くのはやめてください。
　貴方も容疑者ですので」

ピシャリと、冷たいほどの言葉が響く。
ーーアラカだ。

「なん、だと……！
　わ、私が犯人だとでも……！？
　む、娘に危害を加えるとでも……！！？」

「はい。
　事情聴取もできていない以上、その可能性は払拭できません。
　一人だけで過ごすならまだしも、二人だけというのは看過できません」

ーー理屈はわかる。
なんなら佐奈ちゃんのお父さんは現状では容疑者筆頭ですらある。
でも、いくらなんでもーー

（あ、アラカ……　流石に、実の父親に対してそれは……）

（そうじゃないかもしれないから言っているの。
　親しい人に成りすますなんて、悪霊の常套手段なんだから）

ひどく冷たく、切羽詰まって、それでいて真摯な言葉だった。

そうだ、もしも懸念通りだったとしたら、佐奈ちゃんは間違いなく襲われるーー自分の父親の顔をしたものに、だ。

「な、な、なーー」

とはいえ、もしも成り代わりでなかったとしたらこの怒りも本物だろう。
もはや顔色が赤くなっているのか青くなっているかもわからない。

（ちょ、これマズいんじゃ……）

（……手を上げてきたら、下がってね。
　大丈夫、ちゃんと手加減するから）

チラリと見えたアラカの右手には手袋がはめられている。
アレはたぶん除霊道具の一つーー何故だか、悪霊はこれで殴り祓うと凶暴に笑うアラカの顔がありありと想起できる。

これはもう間違いなく荒事になるーー観念した僕は少し重心を後ろに寄せて飛び退る準備をしてーー

「ならさ、オレはこのお姉さんたちと一緒にいるよ。
　んで、父さんは明日またこっちきてくれ」

佐奈ちゃんが、それを遮った。

「な、何を言っているんだ！
　佐奈、お前わがままもたいがいに！！」

「だって女同士で同じ場所に固まってた方が良いだろ。
　父さんと一緒にトイレやお風呂なんてオレ嫌だぜ？」

「な、な……」

確かにこの場で女性は佐奈ちゃんとアラカしかいない、理屈は通っている。
しかし……

「お、お前、なあ……！
　私はお前のことを心配して……！」

「だから明日来てくれって。
　そしたら父さんも家に帰って明日を待てば良いじゃん？」

いやに強引、というか。
佐奈ちゃんはお父さんから離れたっがている、のか……？

「話は決まったようですね。
　では、佐奈ちゃんはこちらということで。
　村長さん、葉月さん、使っていい屋敷があると言ってましたね？」

「お、ああ。
　来賓用の屋敷が一つ余っとるわ。
　3人くらいなら余裕で使える……
　あ、なんならワシの屋敷にこんかのう？
　客間もあるし、空いとる部屋もあるか」
「ではその屋敷を使わせていただきますね。
　葉月さん、掃除道具とか貸していただけますか？」

「ああ、掃除はしてありますのでそのまま使ってもらえますよ。
　食べ物の類は置いてないので、それだけは後で僕が持っていきますよ」

トントンと段取りが進んでいく。
何より、佐奈ちゃん自身がアラカの側に立っているのだ。
今から流れが変わることはないだろう。

「……ふん！　私はこれで失礼する！」

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

